Editor’s Eye

プラダという“知性派ラグジュアリー”の現在地──創業111年、共同デザインチーム制、そしてヴェルサーチ買収の衝撃

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―こんにちは、編集長の佐々木です。

4月10日早朝、ミラノ発の一報に私はコーヒーをこぼしました。


プラダがヴェルサーチを12.5億ユーロで買収―

イタリアン・ラグジュアリーが本気で“第三極”を作る日が来たのです。

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reuters.com



王室御用達から“眠り”へ──1913–1977

そもそもプラダは1913年、マリオ&マルティーノ・プラダ兄弟の革小物店〈Fratelli Prada〉としてミラノのガッレリアに誕生しました。


紋章入りトランクが王侯貴族の旅を彩りつつも、戦後の“重厚=贅沢”が色褪せると、ブランドも長い停滞に入ります。

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黒ナイロンで常識破壊──1978–1990

転機は1978年。

孫娘ミウッチャが家業を継ぎ、軍用ポコーネナイロンで黒バックパック〈Vela〉を発表。


“レザー万歳”の80年代に「ナイロンこそラグジュアリー」と宣言したこの逸品は、後に“アグリーシック”と呼ばれる美学を芽吹かせました。

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グローバル拡張と“建築する店”──1990–2010

90年代、妹ブランド〈Miu Miu〉を創設し、2001年にはレム・コールハース率いるOMAとニューヨーク・ソーホーにEpicenter Storeを開店―ショップを思想の発信装置へ格上げした瞬間です。


さらに2011年、香港証取に上場し21億ドルを調達。イタリアの老舗がアジア資本市場に殴り込みをかけた、あの眩暈を覚えた夜を私は忘れません。

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共同クリエイションの衝撃──2020–

2020年4月、ベルギーの鬼才ラフ・シモンズが共同クリエイティブ・ディレクターとして就任。


ミウッチャと「対話」を重ねる異例の二頭体制は、テクノロジーと詩情が混在するショーを量産し、“独裁的デザイナー像”を揺さぶりました。

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Re-Nylonが示す循環型ラグジュアリー

2019年に始動した「Prada Re-Nylon」は海洋プラなどを再生したECONYL®で全ナイロン製品を置換。


2024年初頭にバージンナイロン完全ゼロを達成し、素材革命は創業期の“機能美”をサステナビリティへ昇華させました。

prada.com



5.4 Bユーロ企業へ──数字で読む現在地

2024年のグループ売上は54億ユーロ(前年比+17%)。

Miu Miuは驚異の+93%を叩き出し、兄妹ブランドで売上の4分の1を占めるまでに急伸。

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ブランド価値指標でも、インターブランド「Best Global Brands 2024」で83位/83億ドル(+14%)に上昇。

interbrand.com


一方、検索・SNS熱量を測るLyst Indexでは2025年Q1=5位。同じ家の妹分Miu Miuが首位を争う構図は、デュアル・ブランド戦略の勝利です。

culted.com



ヴェルサーチ買収、その先に見えるもの

今回の買収でプラダは売上ベース60億ユーロ超が視野に入り、LVMH・ケリング追撃の射程に入りました。


官能美を極めるヴェルサーチと知性派プラダ――水と油が同じ鍋で煮立つとき、伊ラグジュアリーの“旨味”はどこまで濃くなるのか。私は早くも2026年の合同ショーを妄想しています。

theguardian.com



編集長の私見—“考える服”はどこへ向かう?

プラダの強みは三つ。

知性を裏打ちする社会的テーマ、実験を恐れない素材・構造、そして商業を忘れないROI意識。

このトライアングルが回転を続ける限り、流行はプラダを追いかける側に回り続けるはずです。


結び

111年という歳月は、ブランドを“老舗”にするには十分。でもプラダは老舗であることに甘んじず、ナイロンもデザイナー体制もM&Aも逆張りで更新し続ける。


ラグジュアリーを“動詞”に変えたこの知性派ブランドが、次にどんな予測不能な一手を打つのか――世界が息を潜めて待っています。

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